バッティングセンター (カカシ先生とデートシリーズ#1)
カカシ先生とバッティングセンターに行った。
デートだ。
子どものころから任務ばっかりで休日の遊びというものを知らない先生に、オレが普通の「楽しいこと」を教えてあげるんだ。
もちろんバッターボックスで超速球を豪快に打ちかえすオレのかっこいい姿をみせて惚れ直してもらっちゃったりなんかしたいっていう魂胆っていうか願望っていうか男のロマンは、あるよなフツウ持っちゃうよな?
なんたってデートなんだから!
ものめずらしそうに緑色のネットに囲われたおんぼろのバッティングセンターを見回す先生に、とりあえずコインを渡し、バットを選んであげる。
「これで、ボールに、当てればいいの?」
「そうだってばよ!」
まずはオレが見本を…とおもったら、先生はひょいとネットをくぐってバッティングコーナーに入り、ためらいもなくコインを入れる。
「先生、そこ超速球コーナーだってばよ!初めてなんだからまずはスローボールかせめて普通んトコで…」
いい終わらないうちに、ズバンッと初球が放たれる。
バットを構えもせずボールを見送った先生が、うわあ速いねえ、と感心したように呟く。
「だから言ったってばよ!もーしょうがないなー、俺が代わって…」
オレの見せ場が来たってばよ、と指を鳴らしつつ言いかけたら、先生がバッターボックスでバットを頭上に構えた。
「せんせ…!」
ガキン!
超速球が目の前を通過するその瞬間に、先生が頭上に振りかぶったバットを真下に振り下ろす。
バンッ、バシンッ!
振り下ろしたバットが捕らえたボールが地面に跳ね返り、すごい勢いで天井にぶち当たってからアサッテの方角へ転がっていく。
「………せんせ」
「うわーこれ難しいねー」
角度が問題よね、とひとりごちながら、再び先生がバットを振り下ろす。
ガキンッ、バンッ、ドンッ、バコン!
地面、天井とバウンドしたボールが今度はバッターボックス後方の板に勢いよく当たって跳ね返り、ピッチングマシーンの上を越えていく。
ヒットだ。
………じゃなくって。
「せんせー、向き、向き!角度の問題とかじゃねーってばよ、バットの向きが違うってば!」
「向き?ああ、やっぱり?なんかヘンだと思ったのよねー」
ぽりぽりと頭を掻いた先生が、頭上に振りかぶっていたバットを構えなおす。
ピッチャーに向かって垂直に。
そうそれはまるで太すぎるビリヤードのキューを構えるように。
「せんせー!」
カンッ!
意外なほど軽い音をたててバットの先端に当たったボールが、ピッチングマシーンをおおきく越え、放物線ではなく弾丸のようにまっすぐな軌跡を描きながらぐんぐんと伸びていって、バッティングセンターを覆う古ぼけたグリーンのネットをくわんくわんと揺らした。
「ね、これ、ホームラン?」
なんでバットの持ち方知らないくせにそんな言葉だけ知ってるんだってばよ。
無邪気に笑う先生を見ながら、この人を超えるにはオレはまだまだ修行がたらないとしみじみ実感した。
fin. (20090228)
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