映画館 (カカシ先生とデートシリーズ#2)


カカシ先生と映画を観に行った。
デートだ。
子どものころから任務ばっかりで休日の遊びというものを知らない先生に、オレが普通の「楽しいこと」を教えてあげるんだ。
もちろん暗い映画館で隣りあわせで触れ合う肩を抱いちゃったりとか、ドキドキハラハラのクライマックスに指を絡めあっちゃったりなんかしたいっていう魂胆っていうか願望っていうか男のロマンは、あるよなフツウ持っちゃうよな?
なんたってデートなんだから!

あたらしくオープンしたばかりのシネコンはドルビーデジタルサラウンドEX採用。
臨場感あふれる音響と座り心地のいいふかふかのシートがウリだ。
先生がいっつも行くちいさくて怪しげな映画館とはわけが違う。
上映されているのだってラブコメからSF、アニメまでジャンルはいろいろ選び放題だ。

でもオレは先生とのデートで観る映画は最初から決めていた。
『L/M GUYの悪夢』。
服のサイズが突然LになったりMになったりする男の、悪夢のような一日を描く。
ホラーだ。
やっぱラブコメよりもホラーのほうが、接触のチャンスは増えるよな!
カカシ先生は意外にこういうの苦手だから、大丈夫オレがついてるって、って手とか握ってあげちゃったりすればいいんだよな!!

子どものような目でポップコーンマシーンを眺める先生のためにキャラメルポップコーンとジンジャーエールを買ってあげて、チケットに書かれたとおりに5番シアターに入る。
座席もいちばん正面のいい席を押さえた。
先生は、どんな映画なのかなあとニコニコしながら、ポップコーンを一粒ずつ口に運んでいる。

館内の照明が消え、いよいよ上映が始まった。
しょっぱなからL/M男がぐわああああーっという地の底から響くような叫び声をあげながら、Mサイズの服を突き破ってLサイズへと変貌する。
これはかなり、怖い。
先生は、と見ると、ポップコーンをまさに口にいれようとした体勢で固まったまま、画面に釘付けになっている。
口だって半開きのままだ。
超かわいい。

ぐちゃっ、べちゃっ、ぶしゅっ、にゅおおおおーん。
最新の音響設備のおかげでかなり生々しい音を立てながら、ストーリーが進んでいく。
先生はずっと固まっている。
そっと手を伸ばして、先生の腕に触れる。
先生は画面に目を奪われたままだ。
ゆっくりと肩に手をまわす。
抵抗は、ない。
ホントに映画に夢中だ。
可愛すぎるってばよ、先生!
調子に乗ってその細い肩をぐっと抱き寄せ……た瞬間。
ボンッ!

「うわああああーっ」

オレの叫び声は、L/M男が振りおろした鋼鉄製メタボ測定メジャーがビキニ美女の命を奪うその断末魔の悲鳴にシンクロした。
抱き寄せたはずのカカシ先生の姿は消え、先生の座っていた場所にはごろんと丸太がひとつ。
変わり身の術じゃねーか!
先生どこ行ったんだってばよ!!

丸太を抱えてがっくりしながら5番シアターを出たら、ちょうど斜め向かいの7番シアターからぞろぞろ出てきた客のなかにカカシ先生が混ざっていた。

「せんせー!どこ行ってたんだよ!」
「あーごめんネ。だってあの映画怖かったんだもーん」

しれっとした顔で答えるカカシ先生のそばをなぜだか避けるように、7番シアターの客が通りすぎていく。
そういえば先生以外の客はちっちゃいおんなのことそのお母さんばかりだ。

「なに観てたんだよ、先生は…」
「ん?あれ」

先生が指さした先には、キラキラの瞳にカラフルな髪色、ふりふりミニスカートのおんなのこが5人、等身大に描かれている。

「……Yoah!プリンキュアン5?」
「そう!」

先生が目を輝かせて頷く。

「すっごいプリティーで、キュアッキュアだったよ!!」

母子連れから投げかけられる不審そうな視線をものともせず嬉しげに言う先生を見ながら、この人を超えるにはオレはまだまだ修行がたらないとしみじみ実感した。

fin. (20090228)


<テキストへもどる>