銭湯 (カカシ先生とデートシリーズ#3)


カカシ先生と銭湯に行った。
デートだ。
子どものころから任務ばっかりで休日の遊びというものを知らない先生に、オレが普通の「楽しいこと」を教えてあげるんだ。
もちろん風呂あがりの夜風に吹かれて寒そうに震えながらオレを待つ先生の首元に赤い手ぬぐいをマフラーがわりに巻いてあげちゃったり、冷えた体を抱きしめてつめたいね、とかなんとか言ってみたいなんて魂胆っていうか願望っていうか男のロマンは、あるよなフツウ持っちゃうよな?
なんたってデートなんだから!

赤い手ぬぐいは持っていなかったから、木の葉商店街の福引でもらったオレンジ色のタオルとちいさな石鹸を二人分洗面器に放り込んで、とっぷりと日の暮れた道をたどって銭湯へ向かう。
「ゆ」と大きく染めぬかれた暖簾をくぐり、墨で番号が書かれた木製の下足箱に隣りあわせで靴を入れ、番台のおばちゃんに入浴料を払う。
男湯には平日の夜だというのにけっこう客が入っているようで、鍵もついていない昔ながらの木棚に置かれた籐の脱衣籠からは、色とりどりの上着やらタオルやらが覗いている。
綱手のばあちゃんが生まれる前からあるんじゃないかってほど古めかしい体重計が、脱衣場のすみにどーんと鎮座している。

「ここで服脱げばいいのね?」
「そうだってばよ!って…え?」

ジジジとカカシ先生が忍服ベストのジッパーをさげる。

「カカシ先生、服脱ぐの?!」
「あたりまえデショ。ちがうの?」

いや、うん、そうなんだけど。
なんか自分で誘っておいてなんなんだけど、そうだ銭湯って先生と一緒のお風呂はいるんだよな。
男同士なんだからどっちも男湯だよな。

ものすごく当たり前のことにいまさら気づいて、ちょっと動揺する。

先生が脱いだペストをポンと籠に放り込む。
薄地のアンダーシャツごしに、先生の肩甲骨が浮かびあがる。

「あー、瓶入りの珈琲牛乳なんてあるんだ。お風呂あがりに飲みたいなあ」

呑気なことをいいながら、カカシ先生がするりと口布をおろす。
すんなりとした鼻筋と、綺麗な形の唇があらわになる。

「口布もっ…!あ、いや、取るよな!あたりまえだよなっ!ハハハ!」
「ん?ああ、そういえば昔おまえたちと温泉行ったときは、隠して入ったネー。あの頃はおまえらがすごい必死に顔見たがってたから、からかいがいがあったヨ!」

なんだか懐かしげに目を細めつつ、先生がすいっと手甲をはずす。
細く長く白い手が、無造作に黒い手甲を一掴みにして、脱衣籠に放る。

そしてそのしなやかな指が、忍服のアンダーの裾にかかる。

「あの、あのな、センセ…」
「んー?」

気のぬけたような返事をしながら先生がひょいとめくりあげたアンダーの下に、鎖帷子に包まれたきっちり鍛えられた腹筋がのぞく。
透き通るような白い肌に、鎖帷子の黒い網目がくっきりと映える。
その白黒のコントラストの中心で、ほそく、ふかく、縦長の陰影をかたちどる、先生の、臍。

「……っ!だ!ああああっ!やっぱ、駄目ーっ!!」
「ちょ、ナルト!」

先生がめくりあげたアンダーの裾を、引っつかんでおろす。

「やっぱ、駄目!帰ろ!」
「なんでヨ!まだ入ってないじゃない!」
「駄目ったら駄目ったら駄目ー!!」

大きな風呂に未練たっぷりな先生の腕をがっしりと掴んで、番台のおばちゃんに急用をおもいだしたからとかなんとか適当に言い訳して、先生を引きずるように銭湯を後にする。

「んもー、なんなのよおまえは…」

口布代わりにまきつけたオレンジ色のタオルのしたでカカシ先生がモゴモゴ文句をいうのにもかまわず、ずんずんと家路をたどる。
なんといわれたって、駄目なものは駄目だ。

臍だけであんなにエロいこの人の全裸を、銭湯なんかで晒せるわけねえってばよ。

淫靡すぎる細長い臍の窪みの陰影をおもいだしただけでちょっと前屈み状態になりながら、この人を超えるにはオレはまだまだ全然修行がたらないとしみじみ実感した。

fin. (20090325)


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