恋のABCマニュアル





※ 注意 ※
いつも以上に阿呆でなおかつ少々お下品ゆえ、お心に余裕のある方のみご覧くださいますようお願い申し上げます
m(´・ω・`)m













古本屋を出たところで、ナルトに会った。
いつもつけっぱなしの電球のようにムダに明るく眩しい奴なのに、今日はうつむいた眉間にくっきりと縦ジワなんかを寄せている。
ふう、とはきだすのは、重い溜息。

「どうしたんだいナルト、悩みごとかい?このあいだ読んだことわざの本には『馬鹿の考え休むに似たり』って書いてあったけどな。馬鹿はどれだけ頭をひねっても結局ろくなことをおもいつけないって意味なんだけどね」
「……サイ、おまえってホント相変わらず…まあいいや、いま怒ってる場合じゃねってばよ」

はああ、ともういちど溜息がおちる。

「明日カカシ先生の誕生日だろ?オレってば先生がめちゃくちゃ喜んでくれるような超スペシャルなお祝いがしたいんだけど、どうしたら先生が喜んでくれるのかわかんないんだってばよ…」

腕組みをして唸りながらナルトが言う。
そういえばナルトは最近、かなり年上でしかも元上司であるカカシ先生と付き合いだしたのだ。
これにぴったりのことわざも僕は本で見つけた。
『蓼食う虫も好き好き』 だ。
まあナルトが幸せそうだから、それはそれでかまわないのだけれど。

「ふうん、誕生日……あ、じゃあこれ参考になるかな?」

古本屋の店名が印刷された紙袋から、買ったばかりの本を取り出す。

「『ナウなヤングのための恋のABCマニュアル』 ……なんでおまえこんな本買ってんの?」
「昨日サクラに、もっと恋する乙女心ってものを勉強しろって言われたんだよね」

サクラに殴られてまだ腫れの引かない頬をなでながら答えたら、サクラちゃんに今度はいったいなに言ったんだよ、とナルトが呆れ顔をする。

「しかもなんかこの本、古くねえ?」
「古本屋の100両均一ワゴンに入ってたのだからね。ええっと…25年くらい前の本みたいだよ」
「それじゃオレたち生まれる前だってばよ。古すぎだろ?」
「でも根本的な人間の心理は時を経ても変わらないものだってダンゾウ様がおっしゃってたよ。ほら、このページに載ってる。『記念日スペシャルデートのABC』」
「え、どれどれ?」

ナルトが飛びつくように本を覗き込む。

「記念日にロマンチックで一生の記憶に残るようなオシャレなデートをしようって、いいじゃん、これ!よっし、ステップ1!『まずはおいしい食事で彼女の心をつかもう。トレンディな店には必ず予約を…』 ん?トレンディってなんだってばよ?」
「ううーん、文脈からして流行っているところってことかな?『夜景の見える席がベスト、テラス席で夜風に吹かれながらディナーを楽しむのも新鮮』 か…」
「夜風に吹かれながら食べるなら、一楽がいいってばよ!流行ってるし、のれんの隙間から夜景も見れるし!」
「一楽じゃ新鮮さは味わえないんじゃないのかい…?『風に吹かれて彼女のソバージュが絡まったら、そっと梳いてあげよう』 …ソバージュってなにかな?」
「ソバー…ソバ?」
「蕎麦?」
「ラーメンのこと中華蕎麦っていうってばよ!やっぱ一楽だ!予約しておけばいいんだな!!」

デートで恋人のラーメンの麺の絡まりをほぐしてあげればいいんだろうか。
なんだか釈然としない気もしたけれど、ナルトが急かすのでステップ2にすすむ。

「ええっと…『服装はもちろんDCブランドでばっちりとキメていこう』」
「DCって、おまえわかる?」
「略称だよね。Dといえばダンゾウ様のDかな」
「じゃあCは?」
「C…キュート?」
「ダンゾウ・キュート?」
「…」
「…」
「…」
「あ、でもダンゾウ様、若いころはモテモテだったっておっしゃってたよ。『ダンちゃんキュート!』って飲み屋の女の子たちが離してくれなかったって」
「前々からおもってたんだけど、おまえいつもダンゾウとなに話してるわけ…?」

なにってそれはいろいろだ。
経験を重ねた人間の語る言葉はときにどんな書物よりも深い真実をあらわしているのだから、あらゆることを心に刻みつけて聞いておくようにと、以前ダンゾウ様がおっしゃっていたのだ。

「つまり墨染めの衣でクールさを演出しつつ、ちょっと崩した襟元と顔半分をぐるぐる巻きにした包帯でキュートさを演出すればいいんじゃないかな?」
「ダンゾウのコスプレなんかしたくねえってばよ」
「まあ、テイストだけでもとりいれてみればいいんじゃないかい?」

テイストなあ、といいながら右手を懐手にして目を半眼にする練習をしているナルトを横目に、ステップ3のページを開く。

「『食事のあとはアーバンハイウェイを車でドライブ』 だって」
「くるま?」
「知らないかい?異国の発明品だよ。半刻で20里もすすむほど速い移動装置らしい。僕も見たことはないんだけれどね。ナルトも瞬身つかえばそれ以上のスピード出るんじゃない?」
「そりゃまあ…でもなんでメシ食った後に瞬身すんの?」
「やっぱりそれは、実力をアピールするってことじゃないのかな。スピードを制するものが恋愛を制するってダンゾウ様はおっしゃっていたよ。そのコントロール具合こそがモテる秘訣なんだって。ときに早く激しく、ときにゆっくりと焦らしつつ…」
「おまえさ、ほんとダンゾウといったいなに話してるわけ…?」

だからそれは本当にいろいろだ。
ダンゾウ様のように世の表も裏も知り尽くした方の話題には、範囲外なんていうものはないのだ。

「『女心を掴むのは、やはりポルシェ、BMW』」
「なにそれ?」
「どうやら瞬身装置の名前のようだね」
「BMWはオレよく先生に言われるってばよ、バカ、マヌケ、別れてやる−!ま、もちろん愛情の裏返しってやつだけどな!」

ふうん。
苦労してるんだな、カカシ先生。

「えーっと、『ベンツやフェラーリも』」
「フェラーリ?」
「ふぇらあり?」
「ふぇら…有り…?」
「…」
「…」
「…」
「…瞬身しながら?」
「ナルトはチャクラも体力もあるから、不可能じゃないだろう?」
「そりゃあ、まあ…やってできないことはないとおもう……けど、なんで?」
「スピードコントロールを制するものが恋愛を制するとダンゾウ様が」
「………わかったってばよ」

なにやら微妙な手つきとともにナルトがイメージトレーニングを始めたので、それじゃあ健闘を祈っているよと別れを告げて、家路をたどる。

翌日からは任務だったから、ナルトのスペシャル誕生日デートの成果がどうだったのかはわからない。
でも2日後、任務報告帰りに見かけたナルトは、顔面にいくつも青あざつくっているわりに幸せいっぱいな表情をしていたから、それなりに成功だったのではないかとおもう。

やはり本は知識の宝庫なのだなあと僕は再確認し、『ナウなヤングのための恋のABCマニュアル』 の次に読む本を探すためにまた古本屋へと足をむけたのだった。

fin. (20090915)




☆ 一行たりとも登場しなかったけど、カカシ先生お誕生日おめでとう ☆

文中の用語の意味のわからないナウでヤングな方は'80年代流行語もしくは死語で検索すると解説があるのではないかとおもいます
いろいろほんとにどうもすみませんごめんなさい
(-人-)




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