日を暮らす: ら
「せんせー、おみやげ!」
「なにそれ、またコップ?こんどは何のオマケなの?」
ナルトがコンビニの袋から取り出した白い箱を、しぶしぶ受け取ってフタを開ける。
なかに入っているのはカラフルなキャラクターがプリントされた、よくある安っぽいマグカップだ。
「それはオマケっていうか、コンビニの一番くじの景品だってばよ。スマイル・ガマキュアってアニメ、人気あるんだよ、知らねえ?」
「知らない。っていうかおまえ、なんで毎回毎回オマケだかクジだかのコップをウチに持って来るの?自分のウチで使えばいいでしょ」
「オレはコレを先生ん家で使いたいの。先生食器とかあまり持ってないからちょうどいいだろ?」
「だからって、これ何個目よ…11個目?ウチの食器棚はおまえの持ってきたコップでいっぱいだよ」
ただでさえ小さな作り付けの食器棚はナルトが毎回持ち込むグラスとマグカップに占領されて、なけなしの客用カップなどはとうに一番奥に追いやられて取り出せもしない。
「ここで、こうやってコップを選んで飲むのがいいんだってば。先生だって、コーヒーカップを選べる喫茶店お気に入りじゃん」
「おまえのオマケコレクションとマイセンやウェッジウッドを一緒にしないでくれる?」
「よし、じゃあ今日は家政婦のガマのグラスで牛乳飲もう。先生も珈琲飲む?淹れてあげるよ、そのガマハッピー・プリンセスフォームのマグでいい?」
「……もー好きにして」
めんどくさくなって椅子の背にぐったり頭をもたせかけた俺の手からひょいとマグを取り上げたナルトが、勝手知ったる様子でキッチンに入っていく。
迷いもなく冷蔵庫を開けたりコーヒーメーカーをセットする音を聞きながら、食器棚のなかにきっちり居場所を確保したカラフルなコップを眺めて、ようやくシテヤラレタのだということに気がつく。
バカナルトめ、と呟いた言葉にはしかし意図したほどの苦さは含まれず、むしろどうしようもない甘さが零れ落ちるのを、見ないふりして新聞を広げ、楽しげに弾むナルトの鼻歌を、聞こえないふりで記事の文字を追った。
ら 来客用カップはいつの間にか使われなくなって
(20120818)
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